この記事が答える質問は、ひとつだけです。「自信がないせいで自分から値段を下げてしまう人は、どうすればそれを止められるのか」。
結論を先に書きます。性格を直そうとするのをやめて、金額を「話す前」に決めておくことです。値下げは、話している最中に起きます。だから、話している最中の自分に金額を決めさせないようにするしかない、というのが今のところの答えです。
書いているのは、さとりといいます。元は調理師で、飲食の現場に10年いました。そこからSNS運用代行のフリーランスとして独立しています。営業が苦手で、その苦手を埋めるために自動化を作り始めた在宅ワーカーです。
先に正直なところを書いておくと、私はこの癖を「克服した」わけではありません。テキストのやり取りは昔から苦手で、今でも苦手なままです。初対面の相手とオンラインで話すと、人見知りと自信のなさが前面に出てしまいます。自分でも分かっています。正直、その時間が本当に嫌です。直っていません。直っていないまま、金額の決め方だけを自分の外に出した、という話をします。
何が起きていたのか|聞かれてもいないのに下げていた
私が実際にやっていたのは、こういうことでした。
金額を出すときに、自信がないから自分から下げてしまっていた。
これだけです。ここは飾らずに書きます。相手に値切られたわけではありません。強く交渉されたわけでもありません。自分で口を開いて、自分で低い数字を言っていました。
値下げというと、普通は「相手から下げてくれと言われて、断れなかった」話を想像すると思います。でも私の場合は、そこまで行く前の段階でした。相手が金額について何か言うより先に、こちらが下げていた。だから、交渉術の記事を読んでも自分には効きませんでした。あの手の記事は「言われたときにどう返すか」を教えてくれるものが多いのですが、私は言われる前に負けていたので、返し方を覚えても使う場面が来なかったのです。
そのときどう思っていたか。「この金額を言って、高いと思われたらどうしよう」でした。もっと正確に言うと、高いと思われること自体より、そう思われたあとに続く沈黙が怖かったのだと思います。オンラインで初対面の人と話しているときの、あの数秒です。自分から下げてしまえば、その数秒は来ません。下げるのは、金額の判断というより、その場から早く抜けるための行動でした。
実際の単価を書いておきます|1本4,000円から10,000円と、1本3,000円
抽象的な話にすると自分でもごまかせてしまうので、当時の数字を出します。
- 独立初期の動画編集の案件は、1本4,000円から10,000円くらいでした。動画の尺によって金額が変わりました。
- 独立初期のコンサルは、1本3,000円でした。
- ココナラでは、コンサルの案件を10件ほどもらいました。時給に換算すると安かったけれど、実績にはなりました。
この数字自体は、独立初期の相場としてそこまで珍しいものではないと思います。問題は金額の絶対値ではなく、その金額をどうやって決めたかのほうでした。私は、相場を調べて決めたのでもなく、作業時間から逆算して決めたのでもなく、「これなら断られないだろう」という感覚で決めていました。根拠が、相手の反応の予想だけだったわけです。
そして、この決め方には終わりがありません。「これなら断られないだろう」の基準は、自信のなさに引っ張られてどこまでも下がります。上限が無い方向にだけ動く物差しを使って値段を決めていたことになります。
ちなみに、独立してから半年くらいは無収入でした。そのあとの半年くらいも、収入は一桁万円台でした。その間はアルバイトをしながら食いつないでいました。この状態で金額を提示する場面に立つと、「取れないよりはマシ」という気持ちが必ず混ざります。混ざった状態で数字を口に出すと、下がります。金額を、いちばん弱っているときの自分に決めさせていたのが、当時の私でした。
「自信をつけてから」では順番が逆だった

この癖をどうにかしようとしたとき、最初に考えたのは「自信をつければ直る」でした。実績が増えれば、堂々と金額を言えるようになるはずだ、と。
でも、この順番だとうまくいきませんでした。理由は単純で、自信がつくのは仕事を受けたあとだからです。金額を提示するのは、仕事を受ける前です。順番が逆なので、いつまで経っても「自信がある状態で金額を言う」場面が来ません。
しかも、安い金額で受けた仕事は、実績にはなっても自信にはなりにくい、という感覚があります。ココナラのコンサル10件は、確かに実績になりました。ただ、時給に換算すると安かったので、「これができたから次はもっと出せる」という気持ちには、正直あまりつながりませんでした。安く受ける→自信がつかない→次も安く出す、という流れができます。実績の本数が増えても、この流れは自動では切れません。
だから、自信を先に育てるルートは私にはありませんでした。性格のほうを直すのは、たぶん無理です。少なくとも私は、独立して何年か経った今でも、初対面のオンライン通話が嫌なままです。
やり方を変えた|話す前に金額を決めて、その場では出すだけにする
それで、性格ではなく手順のほうを変えました。やっていることは、驚くほど単純です。
金額は、相手と話す前に決めておく。話している最中は、決めた数字を出すだけにする。
これだけです。ポイントは「安く出さない」ではなく、「その場で決めない」のほうにあります。私の値下げは、その場で判断しようとした瞬間に起きていました。判断する場面そのものを、通話の外に移してしまえばいい、という発想です。
具体的には、こういう形にしています。
- 作業の内容ごとに、金額をあらかじめ書き出しておく。
- 通話や打ち合わせの前に、その案件がどれに当たるかを決めておく。
- その場で新しい条件が出てきたら、金額をその場で言わない。持ち帰る。
3つめが、いちばん効いています。値下げが起きるのは、たいてい「想定していなかったことを聞かれたとき」です。想定していないから、その場で計算しようとする。焦る。焦った状態の数字は、必ず下に振れます。だから、想定外が出たら金額の話を止める、と先に決めておくことにしました。
これは自信の問題を解決していません。自信が無いままでも同じ数字が出るようにした、というだけです。私はそれでいいと思っています。苦手を克服して臨むより、苦手なままでも結果が変わらない形を先に作るほうが、私には現実的でした。もともと自動化を作り始めたのも、営業が苦手で、その苦手を埋めるためでした。同じ発想です。
なぜ「その場で決めない」が効くのか
理由をもう少し書きます。金額をその場で決めるとき、頭の中で比べているのは「作業量」と「相手の反応の予想」の2つです。このうち、作業量のほうは通話の前でも計算できます。相手の反応の予想は、通話中にしか出てきません。
つまり、通話の前に金額を決めておくと、相手の反応の予想が計算式から抜け落ちます。抜け落ちた状態で出した数字が、私にとっては「本来の金額」でした。通話中に決めると、そこに毎回、下向きの補正が入っていたわけです。
数字を先に紙に書いておくのは、記憶のためではありません。あとから自分が下方修正するのを、面倒くさくするためです。書いてある数字を口頭で下げるには、一度「書いたものと違うことを言う」という段差を越える必要があります。この段差が、意外と効きます。
返事が来なかった案件の話|下げても、下げたせいで通るわけではなかった
もうひとつ、書いておきたいことがあります。
提案資料を見てもらえたことはありました。ただ、そのあとの連絡は一切来ませんでした。こちらからリマインドする勇気がなくて、そのまま終わりました。
それから、独立して最初の仕事は、クラウドソーシングでもらった動画編集の案件でした。その相手からは、すぐに連絡が来なくなりました。
ここから学んだのは、下げたからといって、続くわけではないということです。安く出せば通りやすくなるだろう、通れば関係が続くだろう、と思っていました。でも実際は、最初の仕事の相手からはすぐ連絡が来なくなりましたし、資料を見てもらえた案件も返事は来ませんでした。金額を下げたことが、その後の何かを保証してはくれませんでした。
そのときどう思ったか。正直に書くと、しばらくは自分の金額のせいだと思っていました。もっと下げていれば違ったのかもしれない、と。でも、下げた案件も続かなかったという事実が並ぶと、そうとも言い切れなくなります。下げることは、その場の怖さを減らしてくれるけれど、その先の何かを買ってくれるわけではなかった、というのが今の理解です。
それから、初めて報酬を受け取ったときのことも書いておきます。うれしさより先に「これで生きていける気がしない」と思いました。だから、あがきました。ココナラでコンサルをやったり、YouTubeをやったり、クラウドソーシングをやったり、思いつくものは一通りやりました。仕事が取れないので、毎日なにかしら試行錯誤していました。
あの時期に金額を先に決める運用を持っていたら、と思うことはあります。ただ、当時の私にそれができたかというと、たぶん無理でした。決めておくための材料が無かったからです。何本やればどれくらい時間がかかるのかも、まだ分かっていませんでした。先に決めるには、決めるための材料が要ります。だから、独立してすぐの人がいきなりこの運用に入るのは難しいと思います。ここは正直に書いておきます。
反応が無い期間を、すぐ失敗と読まないこと

値下げの話から少しずれるようで、実は同じ根っこだと思っていることがあります。
引き継いだクライアントの案件を、コンセプトから作り直したことがあります。それが最近になって伸びました。素直にうれしかったです。クライアントも驚いていました。正直、自分でも驚きました。
ただ、伸びるまで手応えは一切ありませんでした。やっている最中は、効いているのかどうか分からないままでした。手応えが無い時期がしばらく続いたあとで、急に来ました。
なぜこれが値下げと同じ根っこなのかというと、反応が無い時期に、自分の値段を下げたくなるからです。返事が来ない、いいねが付かない、問い合わせが無い。そういう時期が続くと、原因は自分の金額なんじゃないかと思えてきます。そして下げます。
でも、あのクライアント案件は、手応えが無い期間のあとで急に来ました。だから今は、反応が無い期間をすぐ失敗とは思わないようにしています。反応が無いことと、金額が高すぎることは、別の話です。混ぜると、下げる理由がいくらでも作れてしまいます。
いま自分がどうしているか|自社の数字もまだ立っていません
偉そうに書きましたが、私自身、今も収益の面では苦しいところにいます。2026年8月時点の状況を、そのまま書きます。
- 自社の収益は、まだ立っていません。
- 業務委託は仕事量が多くて大変なわりに、利益は低いです。
- AIを使った仕事に可能性は感じていますが、収益が立っていないので、方向性が合っているのか不安になります。
- 自分の発信の集客も、うまくいっていません。誰にも見られていない状況が続くのは、単純にきついです。
この状態でも金額を下げないでいられるのは、根性があるからではありません。下げる判断をする場面を、あらかじめ減らしてあるからです。私は自分の意志を信用していないので、意志が試される場面のほうを減らしました。
ついでに書いておくと、業務委託の仕事は、やっていること自体は会社員と変わらないと思っています。働く場所が違うのと、出社が無いだけです。フリーランスはメンタルが不安定になりやすいし、将来も不安です。それでも、好きなことを好きな時間にやれている今の環境は、辞めてよかったと今になって思えます。この両方が本当のところです。
この記事が向く人・向かない人
ここまで読んで、自分に当てはまるか判断してもらうために、はっきり分けて書きます。
向くのは、こういう人です。
- 値切られる前に、自分から金額を下げてしまう自覚がある人。
- 初対面のオンライン通話が苦手で、その場の空気に判断が引っ張られる人。
- 「自信をつけてから単価を上げよう」と思って、何年も上げられていない人。
向かないのは、こういう人です。
- 交渉そのものが得意で、その場で条件を組み立てられる人。この記事のやり方は、その柔軟さを捨てることになるので、たぶん損です。
- まだ1件も受けたことがなく、作業時間の見当がついていない人。先に決めるための材料が無いので、決めた数字が根拠のない数字になります。まずは受けて、時間を測るほうが先だと思います。
- 単価を上げること自体が目的の人。この記事は、上げる方法ではなく、勝手に下がるのを止める方法の話です。
2つめについては、私自身がそうでした。独立初期は、そもそも決めるための材料がありませんでした。動画編集で1本4,000円から10,000円という幅があったのも、尺によって作業量が変わるからです。この対応関係が自分の中で見えるまでは、先に決めようがありません。
もし今から同じ癖を直すなら、どこから手をつけるか

最後に、順番だけ書いておきます。私が実際にたどった順ではなく、今の理解で並べ直したものです。ここは私の考えであって、実測した結果ではありません。
- 今の金額を、そのまま書き出す。上げなくていいので、まず現状を数字にします。私の場合は、動画編集が1本4,000円から10,000円、コンサルが1本3,000円でした。
- その金額が、何時間ぶんなのかを測る。これをやらないと、下げていいのか悪いのかの判断ができません。ココナラのコンサルは、時給に換算すると安いと分かりました。分かったこと自体に意味がありました。
- 通話の前に、その案件の金額を先に決める。紙でもテキストファイルでも構いません。書いてあることが大事です。
- 想定外の条件が出たら、その場で金額を言わないと決めておく。「持ち帰って出します」で止めます。ここが一番の分かれ目です。
この4つのうち、性格を必要とするものはひとつもありません。全部、手順です。自信がある人でもない人でも、同じように実行できます。私はそこを狙っています。
それでも、通話中に下げてしまう日はあると思います。私も完全にゼロにできているとは言えません。ただ、下げたときに「なぜ下げたか」を後から見られるようになったのは、先に書いてあるおかげです。書いていない数字は、下げたことにすら気づけません。
あわせて読みたい
- フリーランスの単価はどう決めるか|安く受けて苦しくならないために
- 営業が苦手でも仕事が取れる方法|売り込まずに依頼が来る導線の作り方
- 提案の返事が来ないとき、追いかけるべきか|リマインドできなかった話
まとめ|自信がないまま、同じ数字を出せる形にする
最初の質問に答えます。「自信がないせいで自分から値段を下げてしまう人は、どうすればそれを止められるのか」。
答えは、金額を話す前に決めておいて、その場では出すだけにすることです。自信をつけて臨むのではなく、自信が無いままでも同じ数字が出る形を先に作る、という考え方です。
私は営業が苦手なままです。テキストのやり取りも苦手ですし、初対面のオンライン通話では人見知りと自信のなさが前に出ます。その時間は今でも嫌です。直っていません。ただ、金額を決める場所だけは、その苦手な時間の外に出しました。苦手を埋めるために自動化を作り始めたのと、同じ動機です。
下げること自体が悪いとは思っていません。実際、独立初期に安く受けたココナラのコンサル10件は、時給に換算すれば安かったけれど、実績にはなりました。問題は、下げるかどうかをいちばん弱っているタイミングの自分に決めさせていたことのほうでした。
もし今、値切られてもいないのに自分から金額を下げている自覚があるなら、性格を直そうとするより先に、次の打ち合わせの金額を紙に書いてみてください。書いた数字を口で下げるのは、思ったより面倒です。その面倒さが、こちらの味方をしてくれます。
なお、この記事に書いた単価はすべて私の独立初期(2026年8月時点から見た過去)の実際の金額であって、相場を示すものではありません。案件の条件や時期によって変わりますし、他の方に当てはまる保証はありません。
フリーランスとして仕事を受ける前段階、たとえば案件の探し方から金額の交渉までを人に任せたい場合は、フリーランスエージェントを使うという選択肢もあります。エージェントは金額の提示を代行してくれるので、私のように自分で言うのが苦手な人には、構造として相性がいい面があります。ただし手数料や案件の傾向はサービスごとに異なるので、条件は必ず各社の公式情報で確認してください(本記事は2026年8月時点の状況をもとに書いています)。まずは無料で登録して、どんな案件がいくらで出ているかを見てみるところからで十分だと思います。


コメント